それでも

少しずつ夫婦らしくなってきていた

そう思っていたのは俺だけかもしれない


けど

毎日一緒に過ごして

少しずつ恵は彼を思い出さなくなっていた


なのに・・・・・・・・・

「智くん・・・

 一緒にコンサートに行きませんか?」

「いいけど?何の?」

「クラシックです。

 大学時代の友達が所属しているオケの。」

「あぁ・・・いいよ」


その時

嫌な予感がした

彼が来るのではないかと



こう言ったときの予感は当たるもので

指揮者が出てきたとたん

恵の表情が変わった

今まで見たことのない顔

それが何を意味するかぐらい分かっていた

彼だ

そして最後の曲

その曲を聴いた瞬間

恵は泣いていた


感動とかそういったものではない

この曲に

彼との何かがあることはすぐ分かった

曲が終わるのと同時に

立ち上がる恵に

「めぐみ大丈夫?」


それしか聴けず動けなかった

あぁもうすぐ

この生活も終わるんだ



そう思うと少しずつ積み重ねてきた

二人の時間が一気に崩れてしまった




ボー然とする俺の元に届いた恵のメール

それを見て

返事を返し静かに席を立つ

アンコールの拍手が鳴り響く中

スポットライトに照らされた彼とは逆に

暗闇へと足を踏み入れて行くように思えた








家に帰り恵を待つが

帰ってこない

やっぱり彼の楽屋に会いに行ったのか

そう考えながら

散歩に出かける

いろいろなことが頭をよぎる

楽しかったこと

恵の事

彼の事

そんな俺の目線の先には

恵の姿と

恵を後ろから抱きしめる

彼の姿があった

「恵?」

そう言った俺の声はどんな声をしているのだろう?

顔は?

慌てておれの方に駆け寄る恵を

もう直視できなかった

彼に紹介されて

自分が何を話してるのかもわからない

ただ

「じゃ恵をお願いします」

と言ったとき

もう恵はこのまま戻らないんだろうな

そう思いながら2人を見送った


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