「恵?」

背中から聞こえる声

体が固まる

足音が近づき

ため息が頭の上でこぼれる

「どうして戻ってきたんだ・・・・」

ため息と一緒に呟かれた言葉

智くんが何を言いたいのかはわかる

だから何も言えなかった

下を向き何も言えない私の肩を叩き

「今からでも遅くないと思うよ」

そう言われ

私は智くんの方へと振り向き

首を横に振った

「どうして・・・・」

そう聞かれても答えられない

「傷つくのが怖いのか?」

その答えにも首を横に振った

「じゃ、なんで?

 泣くくせに、本当は俺より彼の方がいいんだろ?」

少し間を開けて首を振った

「ウソツキだな。

 だったらさっきなんで来なかった?

 すぐ来るっていたじゃないか?

 昨日鳴っていた電話彼からだろ?

 留守電かメールが来てたんだろ?

 それを見て恵はこれなかったんだろ?」

静かに頷くと

智くんから大きなため息がこぼれていた


「ほら」

ため息交じりに小さく聞こえた声

沈黙の後

大きなため息が聞こえ

静かに足音が自分から

離れていくのがわかった

振り返ると

智くんが部屋を後にしようとしていた

急いで立ち上がり

智くんの腰へと抱きつく


そして必死に


「ごめんなさい・・・けどこれからは智君だけデスから

 だから、のだめを見捨てないでください

 側にいてください」

そうかすれる声で言った


腰にまわしていた手に手が触れる


「俺、彼を好きなお前ごと

 今は好きで入れる自信ないんだ・・・・」


そう言うとわたしの手をゆっくりとほどく


「智くん!まって!

 のだめ智くんの事好きですよ!」

振り向いた彼は

今まで以上に悲しそうな顔をし

俯いた

「それ、俺を彼の代わりにしたいだけなんじゃないの?

 楽だから」

「違います!」

「違わない!

 じゃお前・・・俺の気持ち考えたことあった?

 ずーーーと昔の彼を思っている恵の横にいる俺の気持ち。

 全部受け入れられると思った。

 彼の事好きな恵も。

 けど、もう俺には限界なんだ。

 恵の事本当に大事だし・・・・・・・好きだから」


そう言うと外へと智くんは出て行った


自分の足につまずき

ふらつきながら

智くんを必死に追いかける


あの土手に来たところでやっと追いつく


「智くん!まって!

 待ってください!!」


声を張り上げ必死に駆け寄る

「のだめちゃんと智くんの事本当に好きです!

 だって、智くんが家に帰るって言ったとき

 苦しくて、嫌で仕方なくって・・・・・

 それで先輩のところから帰ってきたんです。

 先輩にあった時は、やっぱり先輩がって思いました・・・・

 けど

 智くんが帰るって言ったとき、先輩よりも智くんがいなくなるのが怖かったんです」

そう言うと智くんは

私の元へと駆け寄り

強く抱きしめてくれた


私はその時自分のすぐ後ろに

先輩がいることなんて知る事もなかった

 




 
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