前までなら行くあてもなく

さまようことになっていただろう

けど今の私にはピアニストという仕事もあり

ホテルに泊まることもできる



家からほど近いところにある

ホテルを電話で予約し向かった


けどそのことが

すごく悲しく思えた



ふと大学時代を思い出す

邪険にされてもそこにしか

居場所がなかった

あのころのほうが良かったように思えた



ホテルにチェックインをして

部屋に案内される

「あの・・・・失礼ですが、NODAMEさんではないですか?」

エレベーターの中で少し年老いた女性に声をかけられる


「・・・ハイ・・・・」


「私、あなたのファンなのよ。

 握手して下さる?」

「ハイ。喜んで。」

そう言い笑顔で握手する


「あなたに会えるなんて私はほんと付いてるわ。

 さっきはマルレの千秋とも会ったのよ。

 このホテルで。

 ちょうど私のお隣の部屋にお泊まりみたいなのよ。

 すごく綺麗な日本人かしら?女性の方と一緒だったのよ。」


そう言い残し女性はエレベーターを降りていく


思わず私はその人を追って同じ階に飛び降りた


「あの・・・・・その方のお部屋って・・・・・」

「あ・・・・すぐそこよ。」

そう言いエレベーターホールからすぐ近くの部屋を指差した


「あ・・・ありがとうございます。」


そう言うとエレベーターを呼ぶボタンを押し

自分の部屋のある階へと向かった



エレベーターを降りるとポーターが

少し心配そうな顔をしながら立っていた

「野田さま・・・・顔色がお悪いようですが大丈夫ですか?」


「・・・ハイ・・・・」


そう言い部屋に通される


かぎを受け取りポーターが部屋を去ったと同時に


私は泣き崩れていた







きっと真一君は


彩子さんとあの部屋にいる


そう思うと涙が止まらなかった


本当は今すぐにでも

あの部屋に行き真実を知りたい

けど


そこに行くとすべてが終わるような気がして仕方なかった


真実の扉を開く勇気は私にはなかった


まだ


出来ない



まだ終わらせたくない


まだ一緒にいたい


だから今は


目を閉じ

耳を塞ぎ

言葉を無くしてしまおう


感情と共に


何も感じなくていいように















スポンサードリンク


この広告は一定期間更新がない場合に表示されます。
コンテンツの更新が行われると非表示に戻ります。
また、プレミアムユーザーになると常に非表示になります。